高松高等裁判所 昭和29年(う)359号・昭29年(う)357号・昭29年(う)358号・昭29年(う)360号 判決
本件公訴事実中原判決別紙記載の公訴事実につき原審がそれぞれ被告人の自白に対する補強証拠を欠き、結局犯罪の証明なしとして無罪の言渡をしたことは記録に照し明らかである。所論は右は採証の法則を誤り、事実誤認の違法があるというのである。
よつて記録についてまづ原判決別紙記載第一の公訴事実に関する証拠を検討すると右事実を証するものとしては所論のとおり検察官に対する被告人の第二、第六、第一一回の各供述調書の外、平田武一に対する検察官の第一回供述調書、証人平田武一に対する原審公判調書の各記載を挙げ得るに止る。しかして被告人の右各供述調書は之を通覧すると、同公訴事実中被告人平田武一に対し選挙運動の報酬として金員を供与した点につき、被告人は昭和二七年四月五、六日頃選挙事務所で平田武一と初めて会い、同事務所毋屋八畳間で同人に岡田候補者の選挙運動を依頼しその報酬として一万円を千円札で裸のまま渡した。同人はその後四、五日か一週間位後再度事務所に来て天理教の人に投票を頼んだ旨報告をうけたとの要旨の記載(自白)がある、之に対し右平田武一の前記各調書によると同人の供述として昭和二七年四月初頃岡田候補の選挙事務所に政見発表を見に立寄つた際初めて被告人と会い同人から事務所の八畳間で右候補者のため選挙運動の依頼をうけ、天理教信者に運動することを約しその後一週間して再び事務所にて被告人と会い、信者数を記載した書面を渡したが金を受取つたことは全くない旨の記載がある。
およそ自白の補強証拠としては自白にかかる犯罪の真実性を保障するものであれば足ることは最高裁判所の判例とするところである。しかし犯罪事実の如何なる部分につき如何なる程度の補強証拠を必要とするかは議論の存するところで之を余りに広く解することは自白に補強証拠を要するとした法の趣旨を没却するものである。前記平田武一に対する各供述調書の記載は前記公訴にかかる犯罪の構成要件の全部を裏付けるものでないのは勿論、単に被告人が平田武一に金員を供与し選挙運動を依頼したという日時、場所において、右平田武一が被告人から選挙運動の依頼をうけたというに止るものであるから、犯罪事実の一部たる金員授受の事実を裏付けるものとも認められず、右の程度を以ては到底前記自白を補強する証拠としての価値を認めることはできない。論旨は右平田武一が被告人の依頼をうけ、選挙運動をしたという証拠がある以上被告人の自白を補強するに足るというのであるが所論は結局自白自体の真実性に重きをおくの余り補強証拠の程度範囲を解すること広きに失するもので賛成し難い。
(裁判長判事 三野盛一 判事 谷弓雄 判事 合田得太郎)